原題: The Vampyre; a Tale
既存の翻訳(人の手による訳) · 訳 佐藤春夫 (†1964) · 出典: 青空文庫 Aozora Bunko · パブリックドメイン
時正に倫敦に於ては冬期の宴会騒ぎが今を盛りの真最中、いつもながら当代流行の魁を行かうといふ連中が先きに立つて彼方此方でさまざまな宴会を催してゐる折から偶その中へ一人の貴族が現れた。貴族とは云へ、彼はそんな身分よりも寧ろ一風変り者だといふ点で人目を惹いてゐた。面白可笑しい周囲の歓楽の中に雑りながら自分だけはそんな仲間に加はることは出来ないと云つたやうな様子をなしてただ四下のさざめきにじつと見惚れてゐるのであつた。彼のこんな様子が、思慮分別などはさらりと棄ててただもうたわいもない歓楽に酔ひ痴れた人達の胸に怖気を与へた… これと時を同じくして、恰もこの頃同じく倫敦へオーブレイといふ少年の紳士がやつて来た。彼はたつた一人の妹と早くに親に死に別れた身なし児で、子供の時分に世を去つた両親が遺して置いてくれた巨額の財産を持つてゐる人物であつた。その財産を何くれとなく世話することを主人に対する唯一の忠義立と心得てゐる後見人がいまだに彼には幾人もついてゐて、その後見人たちに彼は金動で働く家の子たちの世話責任を一切まかせてゐるうちに、次でに彼は分別を養ふことより、どちらかと云ふと、あの婦人帽子屋の見習職人には禁物だといふ廉恥と公明との信念に富む…冒頭 · 佐藤春夫
ほかの特別版: ✦ Der Vampyr · Leopold Voss